ナースコールが同時に3つ鳴ったときの新人ナースの顔
ピンポーン。
ピンポーーン。
ピンポーーーーーーン。

ナースコールのランプが、3つ同時に光りました。
入職してまだ1か月も経っていないほうれん草ちゃんは、そのランプを見つめたまま、動けませんでした。
ほうれん草ちゃんは固まった
頭の中では、いろいろなことが起きています。


どれから出たらいいんだろう。
そもそも、この番号ってどの部屋だっけ?
わたしが出ていいのかな?
でも誰も動かなかったらどうしよう。
考えているうちに、隣を先輩が通りすぎていきました。
「Aさん、わたし行くね」 「Bさん、お願いできる?」 「Cさん、トイレだと思うから、車椅子持っていって」
3秒くらいの出来事でした。

ほうれん草ちゃんは、まだ最初のランプを見ていました。

先輩たちは、なぜあんなに速いのか
新人のころ、これがずっと不思議でした。
同じランプを見ているはずなのに、先輩は迷わない。 どの部屋の誰で、たぶん何の用事で、誰が行くべきか。 考えている様子すら見せずに、体が先に動いていきます。
すごい。頭の回転が違う。自分にはあんなふうにはなれない。
そう思っていました。
でも、たぶん違います。
先輩が速いのは、判断力が高いからではありません。 その患者さんを知っているからです。
どんな人で、いつも何時ごろにコールを押して、何を頼まれることが多いのか。 昨日どうだったか、今朝どうだったか。
それを知っている人にとって、ただ呼ばれたから行くのではなく、「あの人が、たぶんあの用事で呼んでいる」という情報があって向かいます。
一方、入職して1か月も経っていないほうれん草ちゃんは、判断材料をまだ持っていない。
材料がないのに判断しようとしたら、そりゃ固まります。
固まるのは、まじめな人ほど
あの場面で固まるのは、ちゃんと考えている人です。
どうでもよかったら、 適当に近い部屋から行って、適当に対応して、それで終わりです。
固まってしまうのは、
- 迷惑をかけたくない
- 自分が出て、対応できなかったらどうしよう
と、真剣に思っているからです。
つまり、ほうれん草ちゃんが動けなかったのは、心配性だからでも、鈍いからでもありません。
責任の重さを、ちゃんとわかっているからです。
これは、けっこう大事な資質だと思います。
そのうち、鳴る前から手が動くようになる
安心してほしいのは、この「固まる時期」には終わりがあることです。
半年もすると、人の顔が浮かぶようになります。 1年経つと、「あ、たぶんトイレだな」と思いながら車椅子を取りに行くようになります。
そして2年目くらいのある日、後輩がナースコールの前で固まっているのを見て、
「あ、これ、わたしがやってたやつだ」
と自分を思い出しながら温かく見守れます。
ナースコールの話は、こちらにも書いています。

今日も、固まったあなたへ
固まったあと、たいてい落ち込みます。
自分だけ動けなかった。 先輩に気を使わせた。 役に立てなかった。
帰り道でそれを思い出して、また少ししんどくなる。
でも、あの3秒で動けなかったことは、あなたの能力の話ではありません。 まだ、その人たちを知らないというだけの話です。
知るのには、時間がかかります。時間をかけるしかありません。

ちゃんと考えてた証拠だよ。
ほうれん草ちゃん、今日はそれでいいことにしよ。
まずは座って、コーヒーでものんでいってね。
今日もおつかれさま。


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